僕のミューズ
「バイク?大丈夫かよ」
「大丈夫。置いて帰るわけにはいかないし」
「気をつけてね」
「あかりは、遥に送ってもらいな」、そう言って軽く手を降り、体育館を出ていく。
最後の一言は余計だろう。そう思ったが、この天気の中一人で帰すわけにもいかない。
遠くで雷も鳴り始めていた。
あかりを見ると、見るからに不安そうな表情で外を眺めている。
「あかり」
「ん?」
「傘、あるか?」
とりあえず早く帰った方がよさそうだ。
あかりが頷いたのを確認して、俺は帰る支度を始めた。
…外に出ると、思ったより雨脚は強く、地面に叩きつけられる大粒の雫は威力を持って弾いていた。
「駅?」
「あ、うん。遥の家の近くの」
「とりあえず、走るか」
とろとろ歩いていてはすぐにびしょ濡れになってしまうことは一目瞭然だったので、俺達は気休めながら傘をさして真っ黒な空の下に飛び出した。
が、すぐにそれは無駄な抵抗だったことに気付く。
学校から駅まで走って五分もかからない。
なのに、滝でも浴びてきたのかというくらい、傘は意味を為さなかった。