僕のミューズ
「お前どこにいたんだよ。電話しても出ないし…」
「あ、わりぃ…。ショー、見てて」
「まぁいいや。芹梨ちゃん、ほんとありがとね。凄いよかったよ」
紺は俺からすぐに視線を外し、彼女の目の前に少ししゃがんで言った。
背の高い紺は、彼女と視線を合わせようと思ったらしゃがまないといけない。
紺は、彼女を『セリ』と呼んだ。
彼女の名前なのだろうか。
俺はその時、初めて彼女の名前を知らなかったことに気付く。
さっき俺を叩いた時の顔とは変わり、少し戸惑いながらも彼女は笑顔を見せた。
その表情を引き出しているのが紺で、妙に焦りが出る。
と、続いて控え室に先輩が入って来た。
宮田先輩と高橋先輩。高橋先輩は、今回のチームのリーダーだ。ドレスをデザインしたのが高橋先輩なのだ。
「お、遥いたか」
高橋先輩はさっきの紺と同じように俺達に駆け寄り、俺の肩をぽんっと叩いて「お疲れ」と言う。
俺は「ども」とお辞儀をし、あかりの事を詫びようとした。
でもその前に、先輩はまたまた紺と同じように彼女に目線を合わせ、言った。