僕のミューズ
一言一言、心からの言葉を、芹梨に向けた。
今にも泣き出しそうな芹梨は、それでもぐっと力を込めて、弱い所を見せない様にしている。
固く結ばれていた唇が、ゆっくりと弧を描いた。
『…はい』
たった一言。
その一言が、魔法の様に俺の全身に循環していく。
一瞬固まってしまったが、芹梨の笑顔に俺もゆっくりと笑顔を作った。
カツンと芹梨のヒールの音が響く。
一歩一歩、ランウェイを歩く芹梨。
俺もまた、同じペースで前に進む。
…その度に溢れてくる、この感情を。
「芹梨」
足を止める。
俺の口元を読んで、芹梨もまた進みを止めた。
伝えたい。
今、全てを君に。
「笑った芹梨、怒った芹梨、強い芹梨も弱い芹梨も。…耳が、聞こえない芹梨も」
講堂に響き渡る俺の声は、今君に届くだろうか。
俺はぐっと力を入れて、思い切り叫んだ。