僕のミューズ
「全っ部ひっくるめてっ!お前が好きだ!」
手話もない。
ただ全力の、俺の叫び。
一瞬でもいい。振動だけでもいい。
…芹梨に、聞こえて。
はぁっと息を吐き、真っ直ぐに芹梨を見た。
目を丸くした芹梨が、俺を見つめている。
その瞳に映るように、俺は全てを指先に込めて、ゆっくりと手を動かした。
「…好きだ」
瞬きを忘れている瞳が、ゆっくりと揺れ動く。
やがて溢れだした滴が頬を伝うと同時に、芹梨の足が動く。
さっきみたいな丁寧な歩みじゃない。
徐々に早くなり、最後は駆け足になる。
その時既に俺は、芹梨に向かって駆け出していた。
ランウェイの真ん中。
誰もいない、広い講堂の真ん中で。
俺は思い切り、芹梨を抱き止めた。