僕のミューズ
『モデルの仕事、したくて』
芹梨から発せられたその言葉の意味を、俺は最初わかっていなかった。
「・・・モデル?」
『うん』
「って、ショーの、とかじゃなくて、その・・・ほんとの、職業として?」
俺が聞くと、芹梨は少しうつむいて、それでもはっきりと手話をする。
『うん、そう』
あまりにも予想していなかった展開に、俺は正直どう答えていいのかわからなかった。
そんな俺に気付いてか、芹梨は『あのね』と続ける。
『ずっと・・・夢だったんだ。誰にも言ったことなかったけど。高校卒業したらオーディションとか受けようって思ってたんだけど・・・その前にさ、耳、駄目にしちゃったから』
芹梨の夢。そういえば、初めて聞く。
俺は真剣にその手話に耳を傾けた。
『踏み出せなくて。このまま蓋しようって思ってたんだけど。・・・遥に出会って、ひとつの事に真剣な遥を見て、初めて・・・勇気、出たの』
そこまで言うと、芹梨は少しだけ笑って続けた。
『やる前に諦めるんじゃなくて、やってから諦めようって思って。だから、最初で最後。オーディション、受けてみようと思うの』
『もし駄目だったら、事務の仕事しょうと思って』、そう言う芹梨の目には、迷いはないように思えた。