僕のミューズ
そう思うが早く、俺の頬に再び熱い刺激が走った。
彼女の表情は、それはもう『今から叩きますよ』と現れていたからだ。
二発目のビンタをくらった俺は、流石に頬に手をあてて痛さに耐える。
そんな俺に、ショートカットの彼女は「このヒトサライ!」と叫ぶ。
ヒトサライ?
あぁ、人拐いか。
確かにあれは人拐いだったな。
わりぃと謝ろうと思った瞬間、ショートカットの彼女の肩を彼女が叩く。
次の瞬間の光景は、ショーの時と同じ衝撃を俺に与えた。
彼女の手のひらが、指が、綺麗に宙を舞う。
彼女が手を動かす度、黒髪が少し揺れる。
俺は勿論、その場にいた皆が、彼女の手に見とれた。
「…で、それがもらったドレス?」
不意にショートカットの子が、紙袋を指差しながら言った。
彼女は頷いて、また指を動かす。
最後に少し頼む様な仕草を見せて、高橋先輩を指差した。
ショートカットの子は振り向き、高橋先輩と目が合う。
「あの…芹梨が、ありがとうございましたって言ってます。ショーも緊張したけど、楽しかったって。ワンピース、着させてもらいますって伝えて欲しいとのことです」