僕のミューズ
心臓がばくばくいってる。
でも、芹梨の緊張はこんなものじゃないんだろう。
芹梨は小さく頷き、軽く深呼吸したかと思うと、その封筒に手をかけた。
俺は驚いて「え、もう?」と呟くが、その芹梨の耳には届いていない。
仕方なく、俺はそのきれいな指先の行く末を固唾を飲んで見守った。
かさ、と、シンプルな音が部屋に響く。
芹梨が取り出したのは三つ折りにされている白い紙。
ゆっくりそれを開き、その文面に目を走らせた。
俺の心臓の音だけがやけに響く。
芹梨の心臓の音は、聞こえなかった。
しばらくその紙を見つめていた芹梨だったが、やがてゆっくりとそれを元に戻す。
俺はごくんとつばを飲み込んだ。
芹梨の表情は変わらない。
その手が、綺麗に俺の目の前で舞った。