僕のミューズ
「彼女、耳が聞こえないんでしょ」
…耳、が?
「は…まじかよ」
「え、遥知らないで連れてきたの?」
俺が知らなかったことの方が、紺は驚いた様だった。
俺は違和感の正体をはっきりと知る。
…俺は、一度も彼女の声を聞いていなかった。
「唇は読めるって言ってたからね。いや、言ってたっていうか、書いてたのか」
高橋先輩はそう言って、一枚のルーズリーフを出す。
そこには、少し丸っこくて右上がりの文字が並んでいた。
『私、耳が聞こえません。なので話せません。でも、唇は読めます。あたしの目の前で、どうしたらいいか指示してもらってもいいですか?』
…話せない。
「ショー直前に聞かされたから流石に焦ったけどね。でもあたしの指示、ちゃんと聞いて…や、見て、頷いてたから、大丈夫かなって」
宮田先輩の言葉を聞きながら、俺はもう一度ルーズリーフを見る。
その下の方に、間隔を開けてもう一文あった。