僕のミューズ
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B棟主にモデルの控え室だが、なるべくショーまでは他の人に見られたくないのか、人通りはあまりない。
俺たちの控え室であるゼミ教室に向かいながら、ふと窓の外を見た。
粉雪はいつのまにか止んでいた。
人通りの多い外の渡り廊下を見下ろす。
まだ咲く気配のない桜の木は、あの日、芹梨が眺めていたそれだった。
あかりの代わりのモデルを探していた、ちょうど1年前。
手すりに細い手をかけ、まだ咲いていない桜の木を臨んでいた横顔。
黒い綺麗な髪も、整った横顔も、首もとで揺れていたスカーフも。
鮮明に今、瞼の裏に浮かべることができる。
それはあの日の芹梨に限った事ではない。
初めて二人で出かけた日の芹梨も。
飲み会の後、俺を追いかけて駅まで来た芹梨も。
海での眩しい芹梨も。
ランウェイの先で一人真っ直ぐに立つ芹梨も。
俺の家でスウェットでくつろぐ芹梨も。
怒った表情、笑った表情、泣いた表情。
そして、その言葉を紡ぐ、綺麗な指先も全部全部。
いつでも鮮明に、俺は思い描く事ができる。