僕のミューズ
柔らかな桃色によく映える爽やかなブルーの花。
芹梨の頭半分を覆うくらいのそれを、俺は自分の手でつけた。
『…これは、何の花?』
大人しく俺の手の動きを見ていた芹梨は、横の大きな鏡を見て言う。
俺は少しいたずらそうに笑って、芹梨の顔の前で言った。
「何の花でもないよ」
『?』
「俺が作った花。名前は、ない」
桜の花びらを何枚も重ねた様なその花は、あの日芹梨がつけていたスカーフの色に染まっている。
これは、芹梨の為だけに作った、芹梨の為だけの花だ。
「だから、これは芹梨の花だよ」
俺がそう言うと、芹梨は少しだけ目を丸くして、そうしてゆっくりと微笑んだ。
『ありがとう』