僕のミューズ
俺は笑顔でそう言い、芹梨の肩を押した。
芹梨も笑顔で小さく頷いて、控え室のドアを開ける。
ドアの向こうには真っ直ぐに伸びる廊下。
誰も通っていないそこを、美しい芹梨が歩き出す。
一歩一歩噛みしめるように歩き、その度に桃色のレースが優しく揺れる。
俺はそのしゃんとした背中を見ながら、これが俺だけのランウェイなんだと強く感じた。
真ん中まで歩いた所で、芹梨が急に振り向いた。
衝動で頭の花びらが一枚落ちる。
「あ」
俺は思わずそう呟き、その呟きを、綺麗な声がかき消した。