僕のミューズ
そうしている間にも、芹梨は前を見たまま歩いていく。
俺と芹梨の間を、車がひっきりなしに通り過ぎて行く。
信号を渡っている暇はなかった。
言うなれば、その時の俺はがむしゃらだった。ただがむしゃらに。
「芹梨っ!!」
がむしゃらに彼女を、呼んでいた。
さっきよりより多くの視線が俺の方を向く。
どれだけ見られても構わない。
構わないから、だから。
…芹梨、こっち向け。
芹梨の前にいたカップルが、俺の方を指差しながら好奇に満ちた視線で見ていた。
芹梨の視線がそのカップルに向く。
カップルの彼女が指差す方向。
芹梨の視線が、その矢印に向かう。
その大きな瞳が俺の視線を見つけるまでに、そう時間はかからなかった。
行き交う車の隙間で、俺はただ真っ直ぐに芹梨を見つめていた。
芹梨の足が、止まった。