僕のミューズ
……………
公園の真ん中では子ども達数人がキャッチボールをしていた。
いったぞーという子ども独特の声変わりをしていない叫び声が聞こえる。
俺はあまり冷えていない紅茶を手のひらの中でくるりと回し、ふうっと息をついた。
公園の入り口より少し左、花壇が並ぶその端に、腰かけた彼女の背中が見える。
線の細いその背中は、しゃんと伸びてまっすぐ前を見ている様だった。
俺はもう一度息を吐き、足を進めた。
「はい、」
花壇に腰かける彼女の目の前に、遠慮がちにペットボトルの紅茶を差し出す。さっきそこの自販機で買ったものだ。
彼女はペットボトルに目を向け、その後俺に目を向けた。
一連の仕草がゆっくりで、思わず綺麗だと感じてしまう。
俺は少し視線をそらし、鞄ひとつ分くらい間を開けて彼女のとなりに座った。
彼女…芹梨は、俺の差し出したペットボトルを手に取る。視線の端で、芹梨が軽く頭を下げたのが見えた。
俺は自分に買った缶コーヒーを開け、一口飲んだ。
それを見て芹梨もペットボトルを開ける。
遠くで女の子の笑い声が聞こえた。