僕のミューズ
『普通にしゃべってくれたら、わかるから』
普通に。
俺はなるべく普通に、芹梨の方を向いて言った。
「この前…ファッションショーの日、ごめん」
そう言って、頭を下げる。
芹梨は勿論、何も言わない。
「ごめん。俺…何も知らなくて。や、知らないにしても…強引過ぎたし、勝手すぎた。ほんと、ごめん」
俺がゆっくり謝るのを、芹梨は変わらず真っ直ぐ見つめていた。
一言一句、耳に届くよりも伝わった気がした。
そうして芹梨は、ペンをスケッチブックに走らせる。
俺は芹梨と同じように、一言一句見逃さない様に見つめた。
『こっちこそ、ごめん。2発も』
「二発?」
俺が言うと、芹梨は自分の頬に手を当てた。
「あぁ…」
二発。芹梨の一発と、友達の一発か。
「いや、大丈夫、全然」
そう言うと、芹梨は少し困った様に笑い、『まさか佐奈まで叩くと思わなかったから』と書いた。
友達の名前が佐奈ということを、その時初めて知った。