僕のミューズ
「いや、それは別に…」
正直叩かれたことは仕方ないと思っていた。
むしろ俺が驚いたのは、芹梨が『叩いた』という事。
華奢な外見からは、その行為自体が想像出来なかった。
「びっくりはしたけどね」
俺はそう言って笑うと、芹梨もようやく困った様な笑顔を見せた。
俺たちの中で、何かが溶けた気がした。
「芹梨は、大学生?」
俺は改めて芹梨と向き合って、なるべくゆっくりと話した。
芹梨はその大きな瞳で俺を飲み込む様に見つめた後、スケッチブックに文字を書く。
『青華女子大。3年』
「青華女子大…」、俺は呟いて、その続きに書き足す。
『俺も3年。』
芹梨はそれを見て、微笑んだまま頷いた。
改めて近くで芹梨を見ると、それは本当に綺麗な顔をしていた。
睫毛長いな。つか、顔ちっちぇー。
髪の毛もサラサラだし…トリートメント何使ってんだろ。
…って、俺は変態か。
まじまじとそんな事を考えてしまった自分に恥ずかしくなり、俺は誤魔化す様にコーヒーを一気に飲んだ。