僕のミューズ
少し俯いていた彼女は不意に顔を上げた。
横顔がくるりと後ろを振り返る。
彼女の後ろにもう一人女の子がいて、笑顔で手にしているジェラートを差し出していた。
彼女は笑顔でそれを受け取ろうとする。
彼女の笑顔と、俺が駆け出したのは、ほぼ同時だったと思う。
「きゃっ」
ぺしゃっと、ジェラートが落ちる音がする。
声を出したのは、友達の方。
気付いたら俺は黒髪の彼女の腕を掴んでいた。
物凄く驚いた表情を向ける彼女。
その黒目がちの瞳を、初めて正面から臨む。
一瞬、声が出なかった。
「な…んなんですか!?」
友達の声でふと我に返る。
ショートカットの彼女は落としていないジェラートを手にしたまま、俺に剣幕を向けていた。
「あ…ごめん、急に」
俺は何故だかショートカットの彼女の方に謝り、未だに掴んだままの腕を放すことなく、言った。
「今、時間ある?」
「え?」
「ちょっと、お願い!協力して!」
「ちょ、何?」、ショートカットの女の子が受け答えをし、黒髪の彼女はただ俺を真っ直ぐ見て、戸惑いを瞳に表している。