僕のミューズ
芹梨にとってそれは、当たり前のことなのだ。
みんなに気を使われる。
自分の耳が聞こえないから。
それを受け入れて、自分の中で消化しているんだ。
芹梨の横顔を見て、チクリと胸が痛む。
俺は芹梨の肩を叩いた。
「みんな、気使ってるわけじゃないよ」
芹梨の真っ直ぐな視線が、俺の似合わない真剣な顔を捉える。
違うんだ、芹梨。
そういうんじゃなくて。
「みんな、芹梨と話したいんだよ。特別なことでも何でもない。芹梨と、仲良くなりたいって思ってるだけだよ」
少なくとも、俺は。
芹梨のことをもっと知りたくて、近付きたくて、芹梨の言葉を覚えようと思った。
それは決して芹梨を悪い意味で特別視しているわけじゃなくて。
ただ、芹梨をもっと知りたい。
そんな、単純な気持ちで。