僕のミューズ
不意に携帯が揺れた。
ナイスタイミング。俺は急いで通話ボタンを押す。紺だ。
『遥、お前今どこ…』
「モデル、見つけたから!」
「すぐ戻る」、そう言って電話を切り、俺は彼女に言った。
「あんたしかいないんだ。とにかく、来て!」
そう言うが早く、俺は彼女の腕を掴んだまま駆け出した。
「ちょ、待ってよ!何なの!?」
戸惑った友達の声が背中を追いかける。
「後でちゃんと説明するから!」
俺はそう言い残して、とにかく走った。
そこでようやく、自分の心臓が高鳴っている事に気付く。
走ってるからじゃなくて、何か、子どもの頃に物凄い宝物を見つけた時の気分に似ている。
見つけた、と思ったんだ。
細い腕を掴んだまま、俺は振り返ることなくショーの会場へ向かう。
彼女は、何も言わずにただ俺に引かれたままだった。