僕のミューズ


……………

「遥!」

控え室に駆け込むと、紺がパイプ椅子から立ち上がった。

すぐに視線が俺の隣に向かう。
俺が彼女を初めて見たときと同じように、上から下までゆっくりと見る。

彼女は走ったからか、少し頬が紅潮していた。

「この子?」
「あぁ。服は?」

「用意してある」、にやっと紺は笑ってハンガーを手にした。
この表情は、オッケーのサインだ。

紺は手にした服を彼女に渡した。

ラベンダー色のマキシ丈ドレス。
裾がレースになっていて、何枚も重ねてあるからふんわりとした春の印象だ。

彼女には似合う。
何の根拠もなく、俺は直感する。

彼女は戸惑ったままそれを受け取り、困惑した表情を俺に向けた。

俺は彼女の両肩を掴み、目線を合わせて言う。

「急にわりぃ。でも、あんたしかいないんだ。この服着て、ランウェイ歩いて欲しい」

彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめる。
驚いているのか、瞬きを忘れていた。
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