『霊魔伝』其の壱 木の章
「な、なんだよ。まだ帰ってなかったのか。
 別に誘惑なんかされていないし、やましいことはしていない。ねっ、先生。」
「そうよ、永田さん。
 私は小早川君に手伝ってもらいたいことがあるから、その相談をしていただけよ。」
「なら、どうして晩ご飯を何にするなんて、話していたんですか。」
「それは誤解よ。相談に乗ってくれたお礼に、晩ご飯をご馳走するだけなの。」
「絶対、おかしい。私もついていきますからね。先生。」
 そう言うと百合は、零次朗と淳子の間に割って入り、零次朗の手を握った。
「おまえ、何を考えているんだ。おかしいぞ。今日初めてあったばかりなのに。」
 零次朗は手を振りほどいた。
「小早川君、いいじゃないの。三人で一緒に食べましょう。
 ね、永田さん。お料理手伝ってくれるかな。」
それまでふてくされていた百合は、たちまち笑顔になった。
「はい、先生。こう見えても料理得意なんですよ。
 小早川君、そんな顔してると、女にもてないぞ。はい、笑って。」
「なんか、調子狂うよな。今日は朝から何かおかしいよな。」
零次朗がそう呟くと、小太郎は笑った。が、塩原淳子の陰に霊魔の気を感じていた。



「ふう。美味しかった。先生の料理、ホント美味しいな。」
「私のはどうだった。美味しかったでしょう。」
 百合が零次朗に聞いた。
「美味しいかどうかわからないよ。卵焼いただけじゃないか。
 それに甘い卵焼きなんて、子供の食べるものだろ。」
「ふん、小早川君はまだ子供だから、甘いのがいいのかと思ったのよ。」
何故か零次朗と百合は、ケンカばかりしている。
食後のコーヒーを運んできた淳子は、微笑んでいった。
「二人とも仲いいのね。」
「いや、そんなこと無いですよ。それより先生、俺に助けてもらいたい事って何。」
「でも、今日はいいわ。永田さんもいるし。」
「俺は別にかまわないですよ。」
「私もかまわないです。先生、話してください。私もお手伝いしますから。」
「じゃあ、話すわね。まずこれを見てちょうだい。」
淳子はタンスの引き出しから写真を出して見せた。
「きゃっ、何これ。」
写真には奇妙なものが写っていた。
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