『霊魔伝』其の壱 木の章
淳子が生まれて間もない頃に撮った両親との記念写真のようだが、
その両親の姿が歪んで写っており、
見ようによっては鬼の顔のようにも見える影がその上に重なっていた。
もう一枚の写真には、最近撮ったと思われる淳子と見知らぬ女性が写っていた。その見知らぬ女性の姿も歪んでおり、やはり黒い鬼のような影が重なっていた。
三枚目は淳子一人で写っている写真だった。
歪んではないが黒い影が上半身に重なっている。

「これらの写真を撮って間もなく、両親もこの女性も事故で亡くなってしまったの。
 私の写真も今までこんな事はなかったのに、三日前に撮ったらこんな風に写ってしまって。
で、姉に相談したら、小早川君のことを教えてくれたの。」
「この女性は先生とどんな関係の人ですか。」
零次朗は写真を見つめながら尋ねた。
百合は顔が青ざめている。
「この人は、幼なじみの里見恭子さん。大学までずっと一緒で、とても仲が良かったのよ。」
「ご両親の事故と里見恭子さんの事故は、どんな事故だったのですか。」
「両親も恭子も、交通事故なの。
 不思議なことに同じような状況で、事故にあっているの。
 偶然だと思うのだけど、写真のことを考えると怖くなって。」

零次朗は写真をテーブルの上に並べ、目を閉じて印を結んだ。

『以我行神力、神道加持力、神変神通力、普供養而住。吐普加身依身多女。寒言神尊利根陀見。』
(イガギョウジンリキ・シントウカジリキ・ジンペンジンヅウリキ・フクヨウジジュウ。
 トホカミエミタメ。カンゴンシンソンリコンダケン。)

零次朗の口から、ふゅうううと息が洩れた。
額に汗が滲み、一筋頬を伝って流れ落ちた。
淳子も百合も、緊張して零次朗の顔を見つめている。

ふと、緊張がゆるんだ。零次朗が深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。

「先生わかりました。
 この写真の歪みは、恨みの籠もった呪術が掛けられているからです。
 掛けられた呪術が効果を発揮し始めると、生体エネルギーが歪んでしまい、
 それをカメラが写し出しているのです。
 そして、この黒い影のようなものは、猫ですね。
 角のように見えているのは耳でした。」
「小早川君、それは猫の怨念ということなの。」
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