『霊魔伝』其の壱 木の章
零次朗は、小さく女性教師に頭を下げて、出口に向かった。

体育館を出るとトイレに行き、零次朗は小太郎の腕を掴んだ。
「こら、小太郎。おまえのせいで恥をかいてしまった。どうも今日は朝から調子が悪い。謝れよ。」
《すまん。零次朗。だが話を聞いてくれ。》

小太郎は理恵子の件を話すと、屋上に連れて行こうとした。

「何を言ってるんだ。今行ける訳無いだろう。式が終わってからだ。
 それまでおまえは理恵子という子から、詳しい話を聞いてくれ。」
《しょうがない。
 じゃあ、式が終わったら屋上の隅にあるプレハブまで来てくれ。
 そこで待っているよ。》

零次朗はトイレを出て、式に戻った。

式が滞り無く終わり、一同は各教室に入った。


教室に行くと、席順が発表され、零次朗は窓側の席になった。
席に座ると、隣の女子生徒が声をかけてきた。
「トイレ間に合いましたか。ふふ。」
零次朗が顔を見ると、式で隣にいた女子生徒だった。
「おまえか。おかげで恥をかいたよ。」
「何よ、自分が悪いんじゃない。入学式の前にちゃんとトイレぐらい済ませとくものよ。」
「別に、トイレに行きたかったわけじゃないさ。」
「強がりはいいわよ。私は永田百合、百合の花のように綺麗でしょ。宜しくね。」
「ずうずうしいね、まったく。俺は零次朗、小早川零次朗。取りあえず、ヨ・ロ・シ・ク。」

担任が教室に入ってきた。

「私が、これから皆さんの担任と、英語を受け持つ塩原淳子です。
 今日から高校生になったわけですから、気を引き締めて高校生活を送るようにしましょう。
 いいですね、小早川君。」
淳子がそう言って、小早川に笑いかけると、クラス中が笑った。

零次朗は今日二度目の赤面をすることになった。

永田百合も笑っている。

一通りの話が終わると、解散になった。
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