『霊魔伝』其の壱 木の章
零次朗も歩き始めながら、中学校で例のいじめにあって、
怪我をしたときに治療をしてくれたあずさの顔を思い出した。
それがきっかけで保健室に顔を出すようになり、零次朗も心を開いて小太郎のことも話をした。
あずさは真剣に聞いてくれた。
あずさは、小太郎のことや零次朗の持つ不思議な能力を、
真実として受け入れてくれた唯一の大人だった。

「そうよ。美人姉妹でしょう。」
「でも、あまり似てないね。」
「実は、私たち本当の姉妹じゃないのよ。
 私が小さい頃、私の両親事故で亡くなってしまったの。
 その時母の姉夫婦が私を引き取ってくれたわけ。」
「そうなんだ。何か悪いこと聞いちゃったな。」
「いいのよ。それより、君が不思議な力もっているって本当なの。
 もし、本当なら助けて欲しいのよ。」
「助けるって言っても、何をすればいいの。」
「どうしたらいいかわからないのよ。
 だから、家で相談に乗ってもらおうかなと思ったの。」

「小太郎、どうする。」
二人の話を黙って聞いていた小太郎に聞いた。
《零次朗、この話、注意しろ。
何か奥の深さを感じる。簡単には事が済まないような予感がする。》
「今話をしているのが、小太郎君ね。姿は見えないけど、小早川君と仲がいいんだってね。」
小太郎は、見えない自分に向かって話しかけた淳子に驚いた。
《零次朗、俺はうれしいぞ。俺を認めてくれる人間がまた一人増えた。
俺は何か手助けしたくなってきた。》
「わかったよ、小太郎。
先生、小太郎も先生のこと助けたいって言ってるし、話を聞きましょう。」
「本当。うれしい。じゃあ、今日の晩ご飯を買いながら帰りましょう。
何が食べたいのか言ってね。」

二人が校門を出ようとしたとき、二人の前に立ちふさがる人物がいた。
「ちょっと待ちなさい。先生が生徒を誘惑していいんですか。
 それに負ける小早川零次朗も、何を考えているんだ。」

両手を広げて立ちふさがったのは、永田百合だった。
零次朗を待っていたらしい。零次朗は驚いて声を出した。
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