共に在る者
 泣き止んでからずいぶんと時間が経つというのにまだ赤みの残る瞳。


 頬に残る涙の跡が痛々しくすら思える。



 相変らず不安に彩られたまま、すがるような少女の眼差し。




「私がそばにいるのだから、そんなにおびえた顔をしないで。

 大丈夫よ。

 もうあなたは1人きりではないの」

 
 目を細めて少女を見やる。
 

 何も言わずただじっとマーサを見つめていた少女は、何度か瞬きを繰り返したあとわずかに口元を緩ませた。
 

 ものすごくぎこちない微笑だったが、確かに少女は笑ったのだ。


 その様子にマーサは安心して軽く息をつき、浴場の戸を開けたのだった。


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