共に在る者
 この真っ白な世界に一つの人影。
 
 柔らかに波打つ髪は目にしたことの無い不思議な色彩を放っている。

 慈愛に満ちている澄んだ瞳の色も独特で、吸い込まれてしまいそうだ。
 
 優しげに結ばれた口元はきっと声音までも穏やかなのだろうと推測させる。
 
 歳は二十歳前後だろうか。スラリとした四肢を持つ、とても端正な顔立ちの青年である。
 

 ここまで整いきった存在は人間としては考えられない。
 
 青年が何者であるのか、という答えは彼自身にあった。
 
 
 彼の背中にある一対の白く大きな翼。
 
 

 彼は天使だった。



 一向に止む気配の無い降りしきる雪を大して気にも留めず、青年は歩を進める。
 
 どこへ向かうのか知っているかのように、確実に進んでゆく。
 
 雪に深く覆われ、道しるべもなんの役に立たない状況でも、その足取りにためらいは無い。
 

 迷う事は無い。
 
 彼が追うのはある者の気配―――愛しくて大切な……。彼にとって、そして彼の家族にとっても欠け替えの無い者。
 
 この広い世界においても、どれだけ多くの人々に埋もれていようとも見誤る事はありえない。
 
 視覚に頼ることなく気配を手繰っているため、雪で視界が悪くともなんら影響は無いのである。
 
 本来ならこの雪と同じ純白の翼で愛しい者のもとへと飛んでゆきたいのだが、空からの突然の訪問者に驚かせる事の無いように、わざわざ自分の足で進んでゆく。
 

 もどかしくもあるが、久しく会うことのなかったある人物のためには細心の注意を払う必要があった。
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