共に在る者
“この少女は何も分からないのではないか”というマーサの予想通りだった。

 常に穏やかなマーサではあるが、さすがに困ってしまった。

 名前も何も分からないようでは少女の家族を探しようがない。


 2人はお互いに黙り込んでしまい、静かな時間だけが流れてゆく。


 マーサは暖炉の火が揺らめく様子を眺めながら、少女が1人であそこにいた理由を考えていた。
 

 こんなにも愛らしい少女が親に捨てられたとは到底思えない。

 少女の身なりからして、一家が金に困り、食うにやまれず子供を捨てたと言うにはあまりにも小綺麗過ぎる出で立ち。


 あの神秘的な布地は一体どれほどの価値があるのか、計り知れない。

 マーサは農村部出身で、知識と言える物は乏しいのだが、「珍しい物は高価である」ということくらいは分かる。

 服装もそうだったが、手入れの行き届いた髪は栄養状態が良かったことを示している。

そして、泣き濡れてはいたものの、少女の頬はほんのりと紅をさしたように血色がよかった。

 つまり、生活に問題はなかったということだ。
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