共に在る者
 青年が雪を踏むわずかな音が風にさらわれてゆく。

「この寒さだ。急がなければ……」
 
 あの子が待っている、という呟きさえも風は遠慮なく運んでいった。 
 
 宙を飛ぶ事は万が一の事態―――この付近の住人に目撃されては、騒動が持ち上がることは目に見えている―――を避けてかなわぬことだが、一刻でも早くたどり着くために、青年は少しだけ力を振るう。
 

 足音すら聞こえぬほどにこの身を軽くし、そして風を操る。
 
 遠目では地に足をつけているのとは変わらぬほどわずかに身を浮かし、風に背を後押しさせ、先程よりも格段に速く足を進める。




 青年がこの世界に降り立ってから程なくして、彼自身と、彼の家族が探し続けていた愛し子の気配のもとにたどり着いた。
 
 そして気付けば、なぜだか二人の周りだけ吹雪は止んでいる。
 
 視界を遮るほどの吹雪を大人しくさせるとは、一体どんな力のなせる技だろう。


 
 凍てつく冬将軍の息吹にも負けずにどっしりと地に根を下ろし、小枝の1本までも枯れることなく堂々とそびえる大樹のもとで、雪にすっぽりと埋もれている者がいる―――雪に包まれるように。守られるように。
 
 それは幼い少女だった。
 
 おそらく歳は十に満たないであろう。
 

 少女の身なりからするとあまり裕福とはいえない家庭で育ってきたことが見て取れる。

 服の布地は色褪せ、所々擦り切れていた。この少女にと買い与えられたにしてはあまりに色褪せている。
 
 時間の経過した布地に見えるのは、大人の服をほどき、その布地で子供用の服に作り変えたからであろう。
 
 しかし、きれいなはぎれ布で丁寧に繕われたその衣類からは、手間と暇を惜しまない深い愛情がひしひしと伝わってくる。

 そして今もその愛情は溢れ続け、少女を見守るように包んでいた。
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