共に在る者
 はぁ、とため息をついて、リリは外を見た。

 窓の外は家々の明かりが消えて、すっかり暗くなっている。


「明日は町にお使いに行く日だから、もう寝なくちゃ」
 
 リリはマーサに買い物を頼まれているのだった。
 
 それと、薬屋にも行くつもりだ―――これはマーサに頼まれてはいないけれど。


 町の薬屋は村にある店よりも種類が多いはずだから、きっと良い薬草が手に入るはず。

 リリは今まで貯めた小遣いを全部使ってでも、マーサの薬を買おうと決めていた。

 10歳の子供の、しかもあまり裕福ではない家庭のリリが貯めた小遣いなど微々たる物だが、それでも少しは買えるはずだ。

『町で買った薬さえ飲めばマーサはよくなる』

 その想いが、今のリリの唯一の心の支えだった。


 リリはもう一度タオルを濡らし、改めてマーサの額に乗せてやった。

 後ろ髪を引かれる想いを強引に振り切って、静かにその場を離れる。

「おやすみ、マーサ」
 
 衣擦れの音さえ立てないように、細心の注意を払って部屋を後にするリリ。


 本当は付きっ切りで看病したいのだが、マーサはリリに『毎晩必ずベッドで寝るように』ときつく釘を刺していたのである。

 そうでも言っておかなければ、心優しいリリは仮眠すらろくに取らないで自分の世話をするであろうということが目に見えていたからだ。

 看病してくれることは嬉しいが、自分の為にリリが睡眠不足となり体調を崩してしまうようなことがあればいたたまれない。
 
 お互いのためを思っての硬い約束。

 後ろ髪を引かれながらも、リリは大好きなマーサの為に今晩もその約束を守る。

 そして、隣の部屋の自分のベッドにもぐりこんだ。
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