共に在る者
 時々リリは、町から帰ってくる村長の娘を村の広場で遊んでいた時に目にすることがある。
 
 立派な馬車の窓から見えた少女は、鮮やかな綺麗な布で出来たドレスを身にまとっていた。

 それを見てリリは『いいなぁ』と思ったけれど、それはほんの一瞬だけ。

 マーサがリリの為に一生懸命作ってくれた服は、確かに見た目は少々粗末だが、どんなドレスよりも着心地が良く、どんな上着よりも暖かかったのだ。

 裕福とはいえない暮らしではあるが、そこにはお金では買えない幸せがあった。


 しかし、お金がないゆえにその幸せが今、消えてゆこうとしている。

 でも、たった10歳の幼いリリにはどうすることもできないのだ。

 悔しくて、悲しくて、リリの頬にはいつの間にか涙が伝う。


「リ……リ。リ、リ……」

 呼吸することすらつらいマーサは、時折ぜいぜいと喘ぎながら、それでも愛しい愛しい幼子の名前を呼ぶ。
 
 リリは慌てて手の甲で涙をぬぐい、笑顔を作る。

「なぁに、マーサ。私はここにいるよ」

 年と病のせいでほとんど目の見えなくなったマーサの為に、自分の顔をマーサに寄せる。
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