共に在る者
 いつも通りの部屋、いつもと同じベッド、そしてリリの目線の下に横たわっているのは、いつもの穏やかな微笑みを口元にたたえたマーサ。

 大好きなマーサ。
 
 ただいつもと違っているのは、リリの呼びかけには二度と応えないということ。

 慈悲深い瞳は優しく微笑んではくれないということ。

 しわくちゃだけれど、温かい手で頭をなでてはもらえないということ……。



「いやっ。いやだったら!ねぇ、マーサ!!

 起きてよ……。起きてっ!!!」
 
 リリの大きな瞳からとめどなく涙がこぼれる。
 
 マーサの肩をつかみ大きくゆすってみるが、もちろん何の反応も示さない。

「マーサッ!!聞こえているんでしょ、ねえってばっ!!!」
 
 溢れる涙をぬぐうこともせず、ひたすらに大声で呼びかけるが、安らかな笑みを浮かべた口元が開くことはもう二度となかった。

「いやだ……よぉ……、私を……一人にしないで。

 一人……じゃ……こわいよぉ……」

 リリはたった一人残されてしまったという悲しみと、恐怖と、絶望感のあまりその場に泣き崩れてしまった。
 

 その晩、外の雪は全く止む気配を見せず、小さな家と小さなリリを見守るように降り続けた。
< 55 / 75 >

この作品をシェア

pagetop