共に在る者
 午後になると村の教会の人たちと村役場の人たち、近所の住人がやってきてマーサの弔いの準備を始めだした。

 元々小柄だったマーサの身体はやせて更に小さくなり、大人用の棺には大分スペースがある。

 その空いている部分に、リリは先程焼き上げた特製のライ麦パンを目一杯敷き詰めた。

 2年程前にパンを作り始めた頃は失敗の連続で、上手に膨らまなかったり、焦がしてしまったりということが多々あった。

 しかし、そんな失敗作のパンでもマーサは『美味しいわよ』と言って食べてくれていた。
 
 リリは申し訳なくて、『無理して食べなくてもいいよ!』と言うのだが、するとマーサは『あなたが一生懸命に作ってくれたんだもの、美味しいに決まっているわ。今日のパンはほんの少し焦げただけ。味は問題ないのよ』と、にっこり微笑んでくれた。
 
 美味しそうにパンを口に運ぶマーサの姿がリリのそばにはあった……。

 そんな幸せだったひと時を思い出し、リリはまた泣きそうになる。

 昨晩からずっと泣き通しで、泣き腫らした目をしているリリ。

 明け方近くまで徐々に冷たくなってゆくマーサに泣きついていた。
 
 こんなに泣いたのは5年前、訳も分からずたった一人で大樹の下にいた時以来だ。


「リリ、マーサの棺を運び出すけど他に何か入れる物はある?」
 
 幼いリリがよほど心配なのだろう。

 シャリナはずっと隣りに付き添ってくれている。
 
 慰めるように、そっとリリの手を握り締めた。
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