共に在る者
 その温もりがあまりに心地よいのと、『自分のそばに誰かがいる』言う安心感から眠ってしまいそうだ。

――――あったかい……。それに、すごく落着く……。

 うつらうつらと目を閉じかけたリリに青年が声を掛ける。

「僕が誰だか思い出せない?」

 その言葉にはっとするリリ。

「……わたしのこと、知ってるの?」

 一瞬で眠気も寒さも吹き飛び、パッチリと開いた瞳でリリは青年と視線を合わせる。
 
 
 深い青と鮮やかな緑が混ざった不思議な色合いの青年の瞳。

 自分に良く似た瞳の色もそうなのだが、穏やかに口元を微笑ませる青年の顔を見て、リリは心の奥深いどこかで引っかかる何かを感じる。

――――どこでこの人に会ったんだろう……?

 知っているような、知らないような。
 
 思い出したいのに、記憶を手繰ろうとするとするりと逃げてしまい、リリの頭の中は薄い霞が張ったようにまどろっこしい。


――――誰?誰……?
 
 リリは右の人差し指の先をそっと自分の下唇に乗せる。小さな頃から変わらない考え込むときのクセである。

「その仕草・・・・・・。ぜんぜん変わってないんだね、リリアンヌ」
 
 青年は人差し指の先でリリの額を軽くつつく。
 

 触れられたところから不思議な波動が広まり、目には見えない時間の波が渦となってリリに押し寄せる。

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