共に在る者
「天使はこの人間界とは異なる空間に生きる者。

 人々との記憶に残っていては、混乱をまきおこしてしまうから……」

 苦虫を噛み潰したような苦しく悲しいトウヤの顔。


「そっかぁ……、そうだよね。

 覚えていたら急にいなくなる私のことを探すよね。

 寂しいけど、しかたないよね……」
 
 泣きそうになるのをこらえ、リリは自分を納得させる。
 


「でもね、リリアンヌ。

 皆の中からお前が消えてしまっても,天使である僕達は人間のことを覚えていてもいいんだよ」

「そう、な……の?」

「この5年という時間はリリアンヌにとって宝物なんだろう?

 だから、一生忘れずにいてあげるんだよ」

「うん、もちろんだよっ。あとで一杯お話してあげる。

 大好きなマーサのこと、教えてあげる」

「それは楽しみだ。じゃあ、そろそろ向こうの世界へ帰ろうか」
 

 トウヤはすっと右手を空に掲げ意識を集中させる。すると陽炎のように周りの景色が揺らぎ始めた。
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