共に在る者
 晩秋を飾る美しい山々を眺めても感嘆の言葉はない。
 

 木の幹に背中を預けているだけだった少女がやがてゆっくりと辺りを見回し、それから良く晴れた空に目を向ける。

 しばらくの間、風に吹かれて流れ行く小さな白い雲を見ているうちに、少女の大きな瞳に少しずつ涙が溢れ始めている。
 


 なぜ自分がここにいるのか?
 
 自分はどこからやってきたのか?

 そして……。


 自分は誰なのか?



 何一つ分からない。

 思い出せない。


 寂しくて、怖くて、不安に押しつぶされてしまいそうで、少女の瞳からはぽろぽろと透明な雫がとめどなく溢れ続ける。 



< 9 / 75 >

この作品をシェア

pagetop