束縛する人
☆年上の彼☆
“3番テーブルあがります”
耳にはめているイヤホンから
今日もあの人の声が聴こえる。
私はそそくさとフロアを離れ
あの人のいる厨房へと向かう
カウンター越しに目と目が合い
あの人は笑みを含んだ優しい眼差しを向けながら
「3番テーブルこれで終わりです」と告げる。
このお店の決まり文句である
「サンキュー」と機械的に告げ
口元だけで微笑み返した後
落とさないようにお皿をプレートへ乗せ
タバスコと、固まらないようにペンネの欠片を入れた粉チーズの小瓶を添え
いそいそとお客様の元へ運ぶ。
「お待たせいたしました
“きのことベーコンのトマトソース”です」
お皿とテーブルが嫌な音をたてないよう気を付けながら
そっとお客様の前へパスタをおろす。
フワッとトマトソースの
甘酸っぱい香りが広がる。