Mに捧げる
序章
骨揚げの儀式は厳かに執り行われていた。


二人一組となった参列者たちが、薄紅色に染まった遺骨を骨壺に収めていく。


竹ばしを延ばすと、遺骨は僅かに熱を帯びていた。


笹原都は慎重にそれを拾い上げ、次の参列者に竹ばしを渡す。


しんと静まり返った火葬炉に、参列者たちの胸を締めつけるような、女性の泣き声が響き始める。


こんな親不幸はないと、都は下唇を噛み締めた。


安藤美佐子という俗名を捨てた彼女は、辞書を総動員しなければ読めないぐらい難しい法名を授けられ、小さな小さな骨壺に収められようとしている。


頭蓋骨がぐしゃりと割れる音が聞こえた。


火葬場の係員は随分乱暴に遺骨を扱うものだと、都は眉をひそめる。


葬式に参列した遺族や友人、ここにいる誰が、彼女のこんな最期を予期していただろう。


美佐子が身体の不調を訴え始めたのは一年前。


当時を振り返ると、その数ヶ月前から顔色が黄ばんでいたように思える。


乳癌が発見されたと、美佐子の両親から聞き及んでいた。


癌を摘出すれば、退院出来るものだと、都は信じて疑わなかった。


けれど、三ヶ月後に打ち明けられた真実は残酷なものだった。


乳癌を発見した時点で、既に手遅れ。


癌は全身に転移していたのである。
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