Mに捧げる
苦痛を取り除くだけの緩和処置が続き、美佐子は日に日に衰弱していった。


長く豊かな黒髪は見るも無残に抜け落ちて、毛糸の帽子を被るようになっていた。


そんな彼女の姿を目の当たりにし、泣いてはいけない、と都は強く思った。


下唇を噛み締め、必死に涙を堪えていた。


身体が痩衰えていく一方で、彼女は明日という日に想いを馳せていたのである。


『早く麻雀打とうよ…』都は消え入るような声で、美佐子に囁きかけた。


彼女は微笑を浮かべながら、小さく頷き、ゆっくりと瞼を閉じた。


それが二人の最後の会話になってしまう。


翌日から安藤美佐子の病室は面会謝絶になり、その二日後、彼女は眠るようにして息を引き取ったのだ。


都は病室の白い天井に向かって、咆哮を上げた。


羽のように軽くなった美佐子の身体を揺すりながら、嘘つき、嘘つき、と何度も叫んだ記憶がある。


安藤美佐子は麻雀の師匠にして、母親代わりの存在だった。


二人の間には実の親子、いやそれ以上の絆があったのである。
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