Mに捧げる
骨壺が白い布で覆われた箱の中に収められた。
喪主である美佐子の父親はそれを抱き上げ、参列者一同に向かって、頭を下げる。
強い人だ、と都は思った。
一年あまりに及んだ美佐子の闘病生活に、母親の清子はすっかり生気を失ってしまったようだが、文義は気丈に振る舞っていた。
病魔に侵されても尚、明日を生きようとした美佐子の逞しさは父親譲りなのかもしれない。
けれど、次の瞬間、文義の顔がぐにゃりと歪んだ。
「美佐子…」と唸り声を漏らし、遺骨を抱いたまま、涙を滲ませている。
最早、都は嗚咽を堪えきれなかった。
堰を切ったように涙が溢れ、不透明な膜に覆われた光景が視界に広がった。
『自殺だなんて、親不幸なことするんじゃないよ』
そう言って、都の額を小突いた美佐子の顔が脳裏に蘇る。
あれは、そう。
十年前の夏の夜。
美佐子の恋人であり、都の父親である正樹が、この世を去った日の出来事だった。
喪主である美佐子の父親はそれを抱き上げ、参列者一同に向かって、頭を下げる。
強い人だ、と都は思った。
一年あまりに及んだ美佐子の闘病生活に、母親の清子はすっかり生気を失ってしまったようだが、文義は気丈に振る舞っていた。
病魔に侵されても尚、明日を生きようとした美佐子の逞しさは父親譲りなのかもしれない。
けれど、次の瞬間、文義の顔がぐにゃりと歪んだ。
「美佐子…」と唸り声を漏らし、遺骨を抱いたまま、涙を滲ませている。
最早、都は嗚咽を堪えきれなかった。
堰を切ったように涙が溢れ、不透明な膜に覆われた光景が視界に広がった。
『自殺だなんて、親不幸なことするんじゃないよ』
そう言って、都の額を小突いた美佐子の顔が脳裏に蘇る。
あれは、そう。
十年前の夏の夜。
美佐子の恋人であり、都の父親である正樹が、この世を去った日の出来事だった。