KISS AND SAY GOOD-BYE
5時半過ぎに葛西臨海公園直ぐ近くにある24時間営業のファミリーレストラン【グリーンハウス】に到着した。
美華は、ちょっとガタガタ震えている。
出来るだけゆっくり走っても、1月の朝方はかなり冷え込む。
ましてやバイクで走った体感温度は、通常の気温より3~5℃は低く感じる。
急いで店内に入ると中はまるで天国だ!
東側の大きな窓がある、一番良い席に座った。
元旦から1週間だけの限定メニューのお雑煮を2つ注文してから、手袋とネックウォーマーを脱いで、キルティングのツナギの上から着ていた革ジャンを脱いだ。
美華とお揃いで買った革ジャンには、腕のところにお互いのイニシャルが入っているのだ。
バカップルとは言わないでくれよ!
美華が、どうしても入れたいって言うから、しょうがなしに入れたんだからな!
お雑煮がやって来て、二人で熱々のお雑煮を食べながら、ケータリング会社新設企画について話していた。
俺達二人は、本当に高校生か!?
いつも一緒にいれば仕事の話ばかりしているんだから……!
それでも、俺の思った事や意見を言うと、それに対して的確な返事をくれる美華と話していたら、新しいアイデアは浮かんでくるし、行き詰まった時には打開策が見えてくるのだ。
そしてお雑煮も食べ終わり、体も暖まった頃、コーヒーを注文して窓に目を向けた。
東側の空が漆黒の闇から、徐々に紫色へと明るさを増していき、更に数分後には赤紫からオレンジ色へと染め直されていく。
そして、6時過ぎには終に太陽がゆっくりと現れ、俺と美華は太陽に向かって今年一年も頑張れるパワーを与えてもらってる。
お店の店長が、静かにコーヒーのおかわりを煎れてくれ、お辞儀をしてカウンターの奥へ消えていった。
俺達は、2杯目のコーヒーを飲みながら会話をしていたら、
『リュウ君、来てたの?
このお店覚えてたんだ!?
あたしが教えてあげたんだよねぇ~♪』
「棚橋さん、どうして!?」
『もしかしたらリュウ君来てるかなぁって思って!』
「もう帰るとこです。
失礼します。」
『そんなに露骨に嫌な顔して帰らなくても良いじゃない。
正月なんだから……
ここ座っても良いかしら滝本さん!?』
「どうぞご自由にお座り下さい!
私達は、もう帰りますから!
リュウ行こ!」
『リュウ君、帰っちゃうの!?
寂しいわね!
これからあたしと一緒に初詣に行こうよ?』
「いいえ、失礼します。
店長、オアイソしてください。」
と言いながら、美華の手を引きながらレジに向かった。
先程のテーブルには不機嫌な顔をした棚橋さんが、一人ポツーンと座っていた。
店の外に出たとたん美華はいきなり振り返り、
『リュウは、昔の女との思い出の場所に私を連れてきたんだ!?』
「美華、誤解だよ。
元々、俺はここの店長と知り合いだったんだけど、偶然に棚橋さんの大学時代の先輩のバイト先だったから、ここのお店でたまたま会っただけで……
その先輩が、バイトを辞めたんだから棚橋さんがこのお店に来るとは思えなかったし、二人っきりでここに遣ってきてとかなんて無かったし、彼女との思い出の場所なんかじゃないってば!」
『そうかしら!?
なんか、リュウの言い訳にしか聞こえないんだけど!』
「そんなぁ~!」
機嫌を損ねた美華は、その日は帰るまで一言も話さず、初詣は諦めて美華を自宅に送り届けてから、俺は一人バイクを走らせた。
そして気が付いたら、港区役所と芝公園の中間地点に現在建設中の、株式会社 【NSフーズ】の新社屋に来ていた。
正月明けに棟上げだと社長が言ってたなぁ……
そんな事を思い出し、暫く眺めていた。