KISS AND SAY GOOD-BYE
社長と共に3階にある一番広いレッスンルームに入ると、そこには男女併せて50人以上が、ダンスのレッスンを受けていた。
『ねぇ、リュウ、スゴいよ!
レッスンルームって言うから、5~6人くらいで練習してんのかと思ったら、こんなに沢山の人達が一緒に遣ってるなんて驚いちゃった!』
「それでも、ふるいにかけられて、練習に着いてこれない人達は、どんどん落とされて行くらしいよ。
最初の1期生の時も、芸能デビューしたくて躍りや歌に自信の有る人達が100人以上集まったけど、半年後には半数以上の生徒が自主退校したらしいよ。」
『そんなに厳しいの?』
「新星MUSICに限らずとも、芸能デビューしたければ、住み込みで寮生活しながら、朝は6時から起きて7時からレッスン、昼に1時間休憩したらそのまま夜は7時迄レッスンして、晩飯後にはボイストレーニングしたり、
作詞や作曲の授業を受けさせられて、歌と踊りとボイトレと作詞作曲のローテーションが3年以上続くんだよ。
その間に、オーディション受けたり、
先輩のステージの手伝いに行ったりと兎に角、日本の芸能界みたいなぬるま湯に浸かってる暇なんか無いんだって!」
『そうなんだ!
高山社長、彼等の中からスターになれるのって何人くらいなんですか?』
「ハハハ、そりゃ彼等次第だよ。
0人かも知れないし、10人組のグループを結成して、その後大ヒットとかになるかもしれない。
遣る気の有る連中には、最大限のバックアップと最高の指導をしてあげるけど、文句垂れたりめんどくさがってサボり癖の出る連中は、直ぐにやめてもらってるから。
本気で望んで進んで頑張ってくれないと、こちらとしてもバックアップのしようが無いからね。」
『そりゃそうですね。
何事も簡単にはいかないって言うことですね。』
「美華も芸能界に興味が湧いてきたのか?」
『違うよリュウ!
私は、頑張って芸能界に入ってきた彼等のサポートが出来るテレビ業界に進もうと思ってるから。』
「そっかぁ。
美華のお父さんって、ひまわりテレビの社長さんだもんなぁ。
ヤッパリ美華も、
そっちの道に進むんだ!?」
『うん。
でも、そう思うようになったのって最近だよ。』
「きっかけは、ヤッパリ新星MUSICでのアルバイト!?」
『そうね。
芸能スクール作って、本社から芸能留学生を受け入れる、その為の準備をしているときに色々考えちゃった。
芸能留学生達は、親元離れて日本の地に来て、そこまでして一体何がやりたいんだろうって!
その先に有るものを私も見たくなっちゃった!
だから、そんな彼等のお手伝いをするために、制作サイドから彼等を見守っていく道を選びたいの。
私は、テレビ局に就職するわ。』
「そっかぁ。
俺は、タレントやアーティストサイドからサポートしていこうと思ってるんだ。
だから、大学入って色々学んで、卒業後には新星MUSICに入るつもりだ。」
『お互い頑張りましょうね。
それにしても、皆上手ね!
さっきのフォーメーションダンスなんて、かなり難易度高そうなのに、簡単に踊ってるみたい!』
「ハハハ、滝本さん、そりゃ彼等も必死に頑張っているからね!
でも、うちの練習生の中で、ここに居るのはまだ入校してから1年も経ってない子ばかりなんだよ。」
『1年未満の練習で、ここまで出来るんですかぁ!?凄いです!』
「元々、才能の有る子やダンス経験の有る子ばかりだからね。
着いてこれない人達は、とっくに辞めていってるし、これからもここから何人かは居なくなるんだよ。」
『厳しいのですね。』
「そりゃそうさ!
練習くらいでへばってる子なら、デビューしても使い物に成らないから、次からは使ってくれなくなり、最後には消えていくのがこの世界だからな。
他の芸能事務所の中には、もっとハードなレッスンして、もっと辛い生活をしている練習生がゴロゴロ居るからねぇ。
うちも負けていられないんだよ。
おまけに韓国には、芸能事務所のタレントやアーティスト以外にテレビ局が抱えている局専属のタレント達がたくさんいるから、テレビに出るための競争率は日本の芸能界よりも大変なんだよ。」
『そうなんですかぁ!』
初めて知った美華は、物凄い顔になって驚いていた。
確かに、俺も初めて聞いたときにはかなり驚いたが。
『じゃあ、局専属のタレント達よりも優れていないと、なかなか番組に呼んで貰えなかったりするんですか?』
「そうでもないけどね。
難しいけど、日本のお笑い番組みたいに、まるっきりの新人にもネタ見せをするチャンスの場は用意しているよ。
アーティストの玉子達が頑張れる新人発掘オーディション番組も有るし、役者の玉子達がドラマや映画にも出れるように、エキストラの枠は新人用にかなりもうけてあるんだよ。」
『そこで、頑張った人達が次のスターになることも有るんですね!?』
「そう言うこと!」