KISS AND SAY GOOD-BYE
千代田区丸ノ内に在るCSマーキュリーサテライト放送を後にして、愛車のセイバーに乗り込みエンジンをかけた。
ゆっくりとスタートした車は、新宿の新星MUSIC日本支社へと向かっている。
桧山は、先程まで話をしていた櫻井プロデューサーの事を思い出していた。
堅物では有るが、話のわかる兄貴的な人だと高山社長が言っていたから、真面目で正直な青年を演じて交渉したけど、うまくいったみたいだ。
まぁ、元々真面目で正直な青年なんだから(自分で言っちゃうかぁ…)、素のままでも問題なかったとは思うのだが(たぶん…)、より強調してみたらスムーズに話が進んだ。
高山社長の指示は大したもんだと感心していた。
その事を会社に戻って高山社長に話すと、
『どうだい、俺の言った通りだったろ!?』
「はい、そのようです。
驚きました。
私がアルバイトスタッフだと言うことを、話し出した途端に食い付いてきてくれました。
来週の月曜日にオーディションしてくれるそうです。
夕方4時半からですので、私が全員を連れていってきます。」
『それじゃあ、安川課長と2人で行ってきなさい。』
「畏まりました。」
『それと、明日のひまわりテレビの収録なんだが、遅れないように早目に寮を出発するように!
交通渋滞なんかに巻き込まれたら大変だから、午前9時には
ここをスタートしてくれ!』
社長室を後にして、芸能部営業部第3営業課に戻ってきた。
そして翌週………
所沢キャンパスに在る、人間科学部の中で、俺の専攻している人間情報科学学科には、5つの学系(領域)で構成されており、その中の一つ、コミュニケーション学系の選択講義の心理行動学が月曜日の3コマ目に入っている。
が、その講義に出席していたら櫻井プロデューサーとの約束の時間に間に合わないので、2コマ目が終わると直ぐにバイクに跨がり、新星MUSICへ向かった。
本当なら、車で通学したいのだが、入学して1年間は自動車通学は禁止されており駐車スペースも無いのだ。
二年生になれば、必要な手続きさえすれば自動車通学も許可されるのである。
新星MUSICに到着したら、丁度第3営業課の人達はお昼休憩で社員食堂に集合していた。
『桧山君!』
「安川課長、お疲れさまです。
今、出社してきました。」
『昼飯は学食かい!?』
「いえ、まだなので社員食堂で頂こうかと、こちらに参りました。」
『そうか!
お腹すいたろう!
じゃあ、早く食べなさい。』
と言うことで、プルコギ定食の食券を買って、
「お姉さん、ご苦労様です。
これ御願いします。」
『あらまぁ、うちらの事お姉さんだってよ!
イヤだねぇ~、照れるじゃないかい!
グワァッハハハ…!』
豪快な笑いかたである。