KISS AND SAY GOOD-BYE
『彼は、この間完成したばかりの第6-NSスタジオの店長を任せている坂田店長だ。
坂田君、彼は高校時代から3年以上うちで頑張ってくれてるW大学生の桧山 くんだ。』
「初めまして、アルバイトの桧山隆一です。
現在は、芸能部門の営業部、第三営業課で主任をしています。」
『桧山くんかぁ。アルバイトなのに凄いなぁ。
私は、有楽町スタジオの店長を任されている坂田孝悌(さかた たかやす)です。
これから宜しく。 』
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
『挨拶も終わったとこで、先程桧山くんにも話していたんだが、坂田くん、君にはマネージャー研修を受けてもらうから。』
『マネージャー研修ですか。
分かりました。
いつからですか!?』
『来月10月1日から21日間だ。
場所は、 静岡県静岡市の清水区村松って高台の所にある、うちの新星音楽会館を研修道場として、君たちを朝から晩まで鬼教官達がしごいてくれるからね。
向こうに9時集合だから、1日の朝6時に、ここ日本支社をスタートしたら間に合うだろう。
今回は、各県から主任クラスから店長クラスまで30人以上集まるから、色々と交流も深めてきなさい。
この住所をカーナビに入力したら、迷わず連れていってくれるから。 』
と言って、新星音楽会館の電話番号と住所を書いた紙を渡された。
『高山社長、私の居ない間の第6スタジオは、誰かヘルプが入ってくれるんですか!?』
『あぁ、合同点呼で会ったことが有ると思うんだが、第3-NSスタジオの本堂店長がヘルプで入るから安心したまえ。』
『港区の虎ノ門スタジオの本堂店長ですか!
それなら安心しました。』
「今回のマネージャー研修、本部スタッフの中からは、他に誰か行かれるんですか!?」
『心配しなくても、棚橋さんは来ないよ!』
「いえ!
……そういう訳じゃ無いですけど……。
私も安心しました。」
『それじゃあ、今回は君達二人で一緒に向かってくれるかな!』
「分かりました。
坂田店長、私の車で一緒に行きましょう。」
『そうかい!
それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰うよ。』
「ところで社長、有楽町スタジオっていつの間に完成したんですか!?」
『ハハハ……!
話せば長いよ。
時間があるなら聞かせてあげるけど。』
「大丈夫です。
聞かせて下さい。」
『元々、有楽町にスタジオを作ろうと土地を購入したのが3年以上も前の話だ。
古びたでっかいビル付きで150坪の土地が1億5000万円だったよ。
ビルを解体して、更地にするのに1000万円以上掛かったけど、それでも1坪百万円なら、安い買い物だろ!?』
「そうなんですか!?」
『ハハハ……、そうなんだよ。
その前年に中野の高円寺に第5-NSビルを建てたけど、その中野の土地でさえ坪70万円なんだからな!
有楽町が約2倍なら、安いもんだ。
有楽町の駅前なんて、坪単価1千万円こえるからな!
有楽町のうちが買ったビルの隣の地価の評価価格が1坪850万円だから!
だから、坪150万円なんて有り得ないくらい凄く安いって事!
まぁ、知り合いの倒産したビル物件を買い叩いたからだけどね。
元の所有者は、それでも現金で即金で払ってくれて助かるよって喜んでいたから、お互い様。』
「ハハハ……。
さすが社長!」
『中野だって、バブル全盛期の頃は、1坪3百万円越えてたんだから。』
「今の4~5倍もしてたんですかぁ。」
『そうだよ。
話が逸れたけど、中野スタジオを建てた扶桑住建に、有楽町スタジオの方もお願いしようと思っていたら、バブルがはじけて落ち込みかけていた小谷建設の社長が遣ってきて、
(うちで請け負わせてください。)
って泣きついてきたんだよ。
小谷建設の社長って言うのが、在日朝鮮人で、一時は羽振りも良かったんだけど、バブルがはじけてだいぶん苦しかったみたいだけど、それでもどうにか頑張っていたみたいだったよ。
それで、それじゃあこれも何かの縁だから、小谷社長んところで宜しく!って発注したんだよ。
図面も引き上がって地鎮祭も無事終わって、工事に着工したとこまではよかったんだ。
自転車操業だった小谷建設には、建築資材を仕入れるお金が底をついてたみたいで、手付けとは別に前金で工事費の半分を入れて欲しいって泣きつかれたんだよ。』
「それを払っちゃたわけですね。」
『まぁな!
そこからは、一気に工事も進んだんだよ。
6階までの骨組みも出来上がり、年明けには棟上げってところで、年末には支払いも多いから、出来れば残りの残金も入れてくれないだろうかと相談されてな!
丁度、手元には本社の方で大儲けして現金を手にしてたところだから、
(良いよ!)
って払っちゃったんだよ。』
「社長、一昨年の年末っていったら、NSフーズの方にもお金が掛かって大変だった時期じゃないですか!?」
『ハハハ……。
まぁ、その時は払えるだけのお金が有ったわけだから、どうせあと1年以内には完成するんだから大丈夫だろうって思ったわけだよ。
そしたら年明け、いつまで経っても工事が始まらないから、小谷建設に電話したら、電話が解約されててな。
数億円のお金と共に消えちゃってたって訳で、慌てたねぇ。』
「酷いですね。
それにしても社長、人を簡単に信じすぎです。」
『まぁまぁ!
その時は、ショックだったけど、逃げられたもんはしょうがないからさ。』
「工事が頓挫してたのは知ってましたけど、そんな事情があったなんて!
それで、扶桑住建に戻して工事が再開したんですね!?」
『いやぁ、こっちもお金がなくなったから、どうにもならなかったんだよ。。
半年くらい放置してたよ。
その時に金光の社長と出会ったんだ。』
「金光住建の金光社長ですね。」
『そう、その通り。
NSフーズの時に御世話になったから、桧山くんも記憶に新しいだろう。』
「金光社長は、私みたいに下っ端のスタッフにも優しく接してくれましたから、良く覚えています。」
『その金光社長が、頓挫していた有楽町スタジオの工事を請け負ってくれて、尚且つ支払いは有るとき払いの催促無しって言う、夢のような申し出をしてくれて、ようやく今年の6月に完成したんだよ。』