KISS AND SAY GOOD-BYE
「それじゃあ、坂田店長はかなり待たされたんですね!?」
『いや、僕が新星MUSICに入ったのは、今年の4月からなんだ。
それまではジャパン放送でミキサー遣ってたんだけど、新星MUSICの安東恭一さんの公開ライブがジャパン放送のiスタジオで行われて、その公開ライブに来ていた社長と出会って引き抜かれたのさ!』
「そうだったんですかぁ。
iスタジオって、今年の3月に出来たばかりの綺麗なスタジオですよね。
私も、一度だけ見ましたけれど、凄くいい感じのスタジオでした。」
『私が、必死で口説き落としたんだよ。
なかなか首を縦に振ってくれなくて、苦労したよ。』
『そりゃあ、僕も家庭が有りますから、悩みましたよ。
桧山くん、知ってるかい!?
11年間働いてきた慣れ親しんだ場所から引き剥がそうと、支度金として百万用意するからとか、給料も2倍出すから来てくれ!とかって話を、銀座の高級クラブでされたんだから!
胡散臭いだろう!?』
「ハハハ…………社長、相変わらずですね!」
『ジャパン放送に直接行くわけにもいかないだろう!
それに、彼の腕が有れば、レコーディングにも直ぐに参加出来るだろうし、絶対にわが社に入って欲しかったからね。
彼を口説き落とすのに、1ヶ月かかってしまったよ。』
「坂田店長、大変だったんですね。」
『ハハハ…………。
確かに大変だったけど、今では誘ってくれた事を感謝してるよ。
妻も子供も喜んでいるしね。』
「お子さんは何才なんですか!?」
『娘が一人いるんだが、今年の12月で6才になるんだ。』
「じゃあ、来年から小学生ですか!」
『そうなんだよ。
それもあって、つい受けちゃった所もあるんだよね。
私立の小学校に入れようと思っているから。
何かとお金もかかるし、妻もパートに出る覚悟してたところでの給料2倍は、揺らいじゃって、そこから本格的に新星MUSICって会社を調べ始めてね‼
そうして、納得してここに入ったんだ。』
「娘さんが小学校からお受験とは、大変ですね。」
『もう今から英語の塾にも通わせてるんだよ。』
「ハハハ…………。」
『娘が一番喜んでいるから、こっちとしてはホッ!としてるんだけどね。
妻が無理矢理行かせてた塾だから。』
「そうなんですかぁ。
それにしても社長!
坂田店長は分かるんですが、私はまだアルバイトなんですが、研修に行っても大丈夫なんですか!?」
『大丈夫さ!
心配は要らないから。
君は、今回から本部スタッフ扱いになっているし、実際の肩書きも主任なんだから。
それに、主任以上の働きをしてくれてる君だから、私は何も心配してないから。
研修に行ったら、思う存分頑張って皆に覚えて貰いなさい。
今回、君が研修に行くと言うだけで研修所内の起爆剤になると思うよ。』
「そんなぁ社長、買い被りすぎですよ。」
『桧山くんは凄いなぁ‼
こんなに社長に認めてもらってるアルバイトスタッフは、前の職場にも居なかったよ。』
「坂田店長も、言い過ぎですって!
確かに、仕事に関してはこんかぎり頑張ってますけど、思うような結果にはなかなか繋がらないし、努力してるのは皆さん努力してますから、やはり結果を残せない時は悔しいですよ。
社長は、優しいですから甘めに評価されてるんですよ。
そうでしょ社長!?」
『俺が仕事で甘めに取り組んだ事が有ったかい!?
心配しないで、胸はって行ってきなさい。』
「はい、分かりました。頑張ってきます。」
『その意気その意気!』
「それじゃあ、今日は失礼します。」
『坂田店長、それに桧山君、良かったらこれから一緒に飯でも食いに行かないか!?』
社長からの食事の誘いで、既に昼飯時なんだと考えたら、急にお腹もグーと鳴いた。
坂田店長も同じ思いだったらしく、二つ返事で了解して3人で社長室をあとにした。