KISS AND SAY GOOD-BYE
2年生 夏休み
翌日の企画室、昨日俺が言った韓国からの留学の話が、企画として通っていたことに室内全員が驚いていた。
まぁ、俺が一番驚いていたんだけど、企画として通ったってことは、これを現実の形として推進していかないといけないのが、この企画推進室である。
直ぐに、企画書をハングル語で作成して、本社に郵送する作業を行い、本社で留学希望者を募ってもらい、先ずは本社選考で通った人材で試験を行い、基準点をこえている者にのみ、日本での活動許可書を申請して、日本で勉強しながら、タレントのたまごとして活動も出来る様になるのだ。
企画推進室では、そんな留学生の為に必要な書類作成と、受け入れ体勢作りを遣らなければいけない。
宿泊場所もそうであるし、日本での学習カリキュラム作成と、講師の選定。
マニュアルの作成から、金銭的援助の為の奨学金制度の導入手続き、等々と遣らなければいけないことが山積みである。
俺と美華は高校生なので、古田室長と常に行動している。
そして、1ヶ月後には本社サイドで留学生が集まり、本社での教育も始まっているらしい。
来年の3月末には、彼らが日本に遣ってくるのだ。
そんな忙しい日々の中、学校は夏休みに突入した。
久しぶりに週末俺と美華は二人揃って休みが取れた。
学校も休み、バイトも休み、バイトのお陰で財布の中は暖かい。
朝から晴天に恵まれ、気温は20℃と暑くもなく寒くもない、まさに絶好のデート日和である。
俺は、愛車のバイクハーレーダビッドソンの スポーツスターXLH883に股がり、美華の家に向かった。
免許を取得して漸く1年が過ぎ、バイクでの二人乗りもOKなのだ。
だから、美華と初めてのドライブデートである。
世田谷は成城にある滝本家に着いた。
思ったよりも道が空いていて、予定よりも30分近く早くついた俺は、約束の時間までコンビニで立ち読みでもして時間を潰すことにした。
美華の家から3分程離れた場所に、コンビニを発見!
駐車場にバイクを停めて、ヘルメットを脱いでミラーに被せた。
その時、突然携帯電話が鳴った。
ディスプレイに表示されているのは棚橋の文字。
<一体何の用事だよ!>
と思いながらも電話に出た。
ひょっとして仕事関係の用事かもしれないからだ。
「モシモシ!
桧山ですけど、何かご用でしょうか?」
『桧山君、今何処に居るの!?』
何か凄く緊迫したような恵美子姉ちゃんの声だ。
「今は世田谷のコンビニの前ですけど、何かあったんですか!?」
『休みの日にゴメンね!
実は、久しぶりの休みだからヒトカラするために新星GTSに来てるんだけど、元カレにストーカーされてて、捕まっちゃったのよ。
スタッフに助けて貰ったら、新星MUSICに騒動がバレちゃうし、助けて欲しいの。
今は、トイレに行かせてよ!って言って、トイレの中から電話してるのよ。
お願い!
凄くヤキモチが酷い彼だったから、些細な事で暴力を振るわれていたから、やっとの思いで別れられたのに、ずっとその後もストーカーしてたみたいで……
新星GTSの4階のルーム420に軟禁されてて、逃げ出すチャンスも無いのよ。
今も、女子トイレの前で見張られていて、どうしようも無くて……
誰にも言えないから、桧山君だけが頼りなのよ。』
凄い勢いで捲し立てられて、しかも声をひそめていたから、マジでヤバイ状況に成っていると想った俺は、何の疑いもなく、
「分かった。
直ぐに行くから、相手の男性を刺激しないようにおとなしくしていてください。
15分くらいで、そっちに着きます。」
と言って電話を切った。