【短編】十分間の会瀬
 そうこうしてる間に今日も電車がホームへ滑り込む。

 体がふわっと右へ流される感覚に、扉が開かなければ良いのにと、戯れに小さく祈ってしまう。

 だけど世界は秩序だっていて、日本の鉄道会社は優秀で、私の祈りは薄弱で。

 両側にスライドした扉から新鮮な空気が流れ込み、それに誘われるようにドッと降りていく人々。


 あなたの背中を見送りながら、明日も会えるかな、なんて考えてみる。

 ホームから消えるあなたの髪が、階段から吹き上がる風に小さく揺れた。
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