Love story of the truth
「いらっしゃいませ。」
トオルさんの声に混じって、明るい声がした。
その明るい声の方へ視線を向けると、すれ違ったあの子が笑顔で立っていた。
やっぱり・・・あの子だった。
そして、笑顔がキラキラしていて俺には眩しくて・・・思わず目を細めた。
「おいっ!幸永!どうしたんだよ。立ったままで、座れよ。」
と言ったトオルさんの声で我に返って、カウンターの椅子に座った。
目が合った俺をジッと見つめていたあの子は、
「さっきの人・・・。」
と呟いて、ただずっと俺を見つめている。
「俺の顔に何かついてる?それとも・・・俺に惚れた?」
照れ隠しに、いつもの調子で言うと、
「いえ・・別に。店に来る時に、すれ違った男の人と同じ香りがしたから・・・その人かなって思っただけです。」
と答えて、おしぼりを出してくれた。
そのおしぼりで手を拭きながら、「そう・・・。」とだけ言って煙草に火を付けた。
まだ店に客は俺しか居なくて、トオルさんが俺の頭を軽く叩いた。
「柚希には手を出すなよ。」
そう言って、いつものように豪快に笑った。そして・・・
「柚希・・・気をつけろよ。」と彼女の頭を撫でた。
小さく頷きながら、チラッと俺を見てすぐに目を逸らした。
「ゆずきって言うんだ。可愛い名前だね。」
そう言った俺に、
「ありがとうございます。」
と言って微笑んだ。営業スマイルってやつか・・・。彼女の本当の笑顔って、もっとキラキラ輝いて綺麗に違いない。
そう思ってしまったら、少しでも彼女の事を知りたくて・・・。
「ゆずきってさ・・・どんな字書くの?」
「柚子の柚に、希望の希で柚希です。」
ほら、また営業スマイル・・・。
「柚希って本当に可愛い名前だね。ぴったりって感じするよ。」
「そう言って貰えて嬉しいです。」
やっぱり・・・営業スマイルだとわかっていても俺には眩し過ぎる。
俺の心を鷲掴みにして離そうとしない。
彼女は、さっき俺の匂いを覚えてると言った。
それだけで、俺は嬉しかった。