夜をすり抜けて

「佐伯さんは今頃お前のことなんか忘れちゃって、涼しい顔して家族と楽しく暮らしてるんだ。ハメられたってわかってる?」


「…わかってるよ」


「言いたかないけど、お前が保証人のハンコ押したの、二十歳になってすぐのことだったろ? あれ、初めっからカモられて仕組まれたことだって言ってるやつもいるんだぜ」


「知ってるし」


「悔しくないのかよ?」


「……」


「笑われてんだぜ?」


「……もういいって」



ガチャンと、樹は食べかけのカツ丼のどんぶりを乱暴にテーブルに置いた。


う…ヤバいな、ちょっと。


最高に険悪な雰囲気になってる。

< 104 / 163 >

この作品をシェア

pagetop