夜をすり抜けて

それでも祐二さんは言葉を止めなかった。


「佐伯は…そういう野郎だよ」


「テメェ……黙ってろ」


大声を上げたわけでもないのに、低くそう放った樹の声には凄みがあって


彼は今まで見せたことのない恐い顔をしていた。


もしあと一言祐二さんがかぶせていたら、きっと殴り合いのケンカにになってたんじゃないかな…




祐二さんはそのまま無言でカレーライスを平らげ、ガタガタっと大きな音を立てて席を立った。


「一生そうやって、踏みつけにされてろ」


冷めた声でそう吐き捨てると、彼は食器を返すカウンターの方へと消えて行った。




……。


樹は恐い顔のまま黙って座っている。


おいしいカツ丼、食べかけだよ…?


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