夜をすり抜けて
しばらく樹は、じっと自分の思考の世界に入り込んでいるようで、わたしはどうしたらいいのかわからなかった。
仕方なく、空いたコップにセルフサービスの水を汲みに行って、コトンと樹の前に置いてみる。
「…サンキュ」
わたしの存在にやっと気づいたみたく、掠れる声で樹は言った。
「ううん」
そんな彼の顔を見ないようにして、わたしはうつむいたままブンブンと、首を横に振る。
「『ごめん、樹』って、それだけでいいから
一言でいいから
嘘でもいいから
連絡くらいくれてもいいのにな」
気まずいムードを掻き消すように、ぽつんと樹がそう言った。