夜をすり抜けて
「スゴイね、ここ。もうこんなに咲いてるんだ」
「ああ、今年は暖かかったし、元々ここは早咲きのスポットなんだ」
そう言いながら、彼が鞄を差し出す。
それは何重にも書かれた落書きがきれいに拭きとられていて、ピカピカに輝いていた。
「いいのに、どうせまた書かれるもん」
「こんなのチョロイぞ。俺が何度でも消してやる」
「うん、でも自分で消せる」
真っ直ぐに見上げてそう告げると、樹の顔が柔らかくほどけて
「そっか、そうだよな」なんて言った。